フリーランスの入金を見通す|KASEGU · 第07回 / 全10回

案件が取消・値引きになったときの請求と入金予定

執筆 Remosia Co., Ltd. 公開 2026-08-02 読了 約6分

この記事の要点

  • 送った請求書は削除せず、「請求した」「取り消した」の2つの事実を並べて残す。請求書番号も飛ばさない。
  • 対応は、取消が請求前・請求後・入金後のどの時点で起きたかで決まる。
  • 適格請求書発行事業者は返品・値引き・返金で返還インボイスの交付義務があるが、税込1万円未満の対価の返還等は免除される。

ここまでは、案件が予定どおり進む前提で話を進めてきました。実際には、請求した後に中止や値引きが起きます。予定表の金額も、送った書類も、そのままでは合わなくなります。

一度差し出された封筒が戻り、対になるもう1通が添えられている様子

たとえば、請求書を送った翌週に、先方都合で案件が中止になります。送った請求書をどうすればいいのか分かりません。取り消すのか、別の書類を出すのか。元の請求書を削除しようとして、消していいのか判断できずに止まります。結局そのままにして、確定申告のときに請求書番号の飛びを説明できなくなります。

対応は、請求前・請求後・入金後のどの時点で起きたかで決まります。請求した後は、削除ではなく別の書類で打ち消します。この記事を読み終えると、取消が起きたときに出すべき書類を判断できるようになります。

送った請求書を消してはいけない理由

請求書は「相手に対して金銭を請求した事実」の記録です。送った時点で、相手の手元にも控えが残ります。こちらだけ削除すると、双方の記録が食い違います。

帳簿の上でも、取り消したこと自体を1件の取引として記録します。「なかったことにする」のではなく、「請求した」「取り消した」という2つの事実を並べて残す形です。番号も飛ばしません。飛んだ番号は、後から見たときに「書類を紛失したのか、意図的に欠番にしたのか」が分からなくなります。

適格請求書(インボイス)を発行している場合は、もう1つ条件が加わります。返品・値引き・返金を行ったときは、適格返還請求書(返還インボイス)の交付義務があります。ただし、税込1万円未満の対価の返還等については、この交付義務が免除されます。1万円未満かどうかの判定は、適用税率ごとではなく、返還や値引きの対象となる請求・債権の単位ごとの減額金額で行います。

3つの時点で対応が変わる

請求前・請求後・入金後で対応が分かれる流れ

請求前に中止になった

見積や納品書までしか出していない段階です。書類を出し直すか、破棄して構いません。予定表の行はまだ「未請求」なので、合計にも入っていません。行ごと消しても影響はありません。

見積を出したまま失注した案件は、記録として残しておくと後で役に立ちます。同じ相手から次の依頼が来たとき、前回の金額感が分かります。

請求後・入金前に中止になった

元の請求書は残します。そのうえで、取消または値引きの内容を示す書類を出します。金額をマイナスで示すか、値引きとして示すかは、相手の経理処理に合わせて確認してください。

適格請求書発行事業者で、返還する金額が税込1万円以上なら、返還インボイスを交付します。1万円未満なら交付義務は免除されますが、帳簿への記録が不要になるわけではありません。自分の控えには残します。

予定表では、行を消さずに状態を変えます。「請求済み」から「取消」に変え、合計から外します。行を消してしまうと、後から「なぜこの月の入金が減ったのか」を追えなくなります。

入金後に返金することになった

すでに受け取った金額を返します。返金額と返金日を記録し、返還インボイスの要否を判定します。判定の基準は請求後の場合と同じです。

予定表では、入金済みの行はそのまま残し、返金を別の行として記録します。プラスとマイナスが両方残る形になります。

値引きも同じ扱いになる

全額の取消だけでなく、一部の値引きも「対価の返還等」に当たります。「今回だけ1万円引きます」という対応も、請求後であれば同じ判定を通ります。

値引きの理由(品質の問題、納期の遅れ、関係維持のため)は書類の要否に影響しません。金額と時点だけで決まります。

手作業・会計ソフト・書類側

  • 手作業で足りる — 取消が年に1回あるかどうか。
  • 会計ソフトで処理する — 記帳と同時に処理したい。赤伝を切る運用が既にある。
  • 書類側で対応関係を残す — 取消の書類と元の請求書を結びつけて残したい。入金予定の合計からも自動で外したい。

3つ目に当てはまる場合、取消のたびに「どの請求書に対する取消か」を手で管理しています。数か月後に見返したとき、対応関係が分からなくなりやすい部分です。

元の請求と対で残る選択肢

ここまでの方法は、アプリがなくても実行できます。道具で減るのは、取消の書類と元の請求書を突き合わせる手間です。

KASEGUでは、取消の請求書が元の請求書と結びついた状態で作られます。案件の書類一覧では、両方が並んで見えます。

KASEGUの案件詳細。書類タブに見積書・納品書・請求書が種類ごとに並んでいる

案件の書類タブです。見積書・納品書・請求書が種類ごとにまとまっており、取消の書類も請求書のグループに入ります。別のフォルダへ移動したり、一覧から消えたりはしません。

請求書の一覧。INV-2025-008が取消済み880,000円、INV-2025-011が返金済み−880,000円として対で並んでいる

請求書の部分を拡大したものです。元の請求書(INV-2025-008)は「取消済み」として残り、取消の請求書(INV-2025-011)が「返金済み」としてマイナス金額で並びます。番号も連続しています。この記事で書いた「請求した」「取り消した」の2つの事実を並べて残す形が、そのまま画面に出ています。入金予定の合計からも自動で外れます。

ただし、出力した書類が適格返還請求書として法定の記載事項を満たしているかは、自分で確認してください。国税庁が示す記載事項(発行者の氏名または名称と登録番号、返還等を行う年月日、元の取引年月日、取引内容、税率ごとに区分した対価の返還等の金額、税率ごとに区分した消費税額または適用税率)と、実際に出力したPDFを照合します。この確認は、どのアプリを使う場合でも必要です。

この方法が向かない場合

インボイス制度の要件は、登録状況と取引条件で変わります。この記事は判定の観点までを扱っています。自分の取引でどの書類が必要かは、税理士または所轄の税務署へ確認してください。

取消が頻繁に起きる取引形態(受注生産、日程が動きやすい業種)では、書類の出し方より先に、契約段階でキャンセル料の条項を決めておくほうが効きます。「着手後の中止は着手金を返金しない」といった取り決めがあれば、取消そのものが減ります。

記帳や決算まで一括で処理したいなら、会計ソフトのほうが向きます。この記事の方法は、書類と入金予定を合わせるところまでです。

過去1年を振り返る

過去1年で、取消・値引き・返金が起きた案件を思い出してください。1件でもあれば、そのとき書類を出したかを確認します。

出していなければ、いま出せるかを検討します。時間が経っていても、帳簿と書類を合わせておくほうが、翌年の申告で困りません。判断がつかない場合は、その案件をメモしておき、次に税理士へ相談するときの議題にします。

KASEGU について

KASEGU は、案件ごとに見積書・納品書・請求書を作り、その書類の状態から来月の入金予定が決まる iPhone / iPad 向けのアプリです。クライアントに登録した支払条件から入金予定日が入り、源泉徴収後の受取額で月別に集計されます。クライアント3件・案件10件・書類20件までは無料で使えます。

本記事は、フリーランスが自分の入金を見通すための実務手順を扱うものです。源泉徴収の要否と税率、インボイス制度の要件、支払期日に関する法令の適用は、報酬の種類・支払者の区分・取引の当事者によって変わります。個別の判断は税理士または所轄の税務署へご確認ください。支払いの遅延で困っている場合は、フリーランス・トラブル110番や公正取引委員会の相談窓口が利用できます。KASEGU は記帳・決算・確定申告を行う会計ソフトではありません。