フリーランスの入金を見通す|KASEGU · 第01回 / 全10回
来月いくら入るか答えられない — 受注から入金までの4つの関門
この記事の要点
- 受注してから振り込まれるまで、案件は受注確定・納品・請求・支払の4つの関門を順に通る。
- 見込める入金として合計してよいのは「請求」と「支払待ち」の列にある案件だけで、その手前の2列は入れない。
- 紙1枚に4列を引いて進行中の案件を置けば、道具がなくても自分の入金が止まりやすい関門が分かる。
フリーランスとして案件を何件か抱えていると、「来月いくら入るの」という質問が急に難しくなります。
たとえば、こんな月です。
仕事用の機材を分割で買うか迷っているときに、そう聞かれます。答えられません。案件は6件動いています。そのうち2件は納品が終わっているはずですが、請求書をもう出したのか、出して支払いを待っているだけなのか、思い出せません。メールを遡れば分かります。ただ1件あたり5分かかります。全部を確かめる気力がないまま、月末が過ぎます。結局その月は、機材を見送ることになります。

心当たりがあるなら、来月の入金額が言えない原因は記憶力ではありません。案件ごとに「いま、どこで止まっているか」を1か所に置いていないためです。この記事を読み終えると、進行中の案件を4つの段階に振り分けられるようになり、自分の入金が止まりやすい場所が分かります。紙が1枚あれば今日できます。
「フリーランスの入金を見通す」という全10本のシリーズの1本目です。入金日の逆算や源泉徴収後の手取りの計算といった個別の手順は2本目以降で扱い、まずは全体の見取り図を作ります。
入金までには4つの関門がある
受注してから振り込まれるまで、案件は次の4つを順に通ります。

① 受注確定 — 見積を出し、相手が承認した段階です。ここを通るまで、金額は確定しません。提案中の案件や、減額の相談が続いている案件を「入る予定」に数えると、合計は必ず狂います。
② 納品 — 成果物を渡し、相手が確認した段階です。ここを通るまで、請求してよいのかが決まりません。納品したつもりでも、相手の確認が返ってきていないことがあります。
③ 請求 — 請求書を発行して送った段階です。ここを通らない限り、入金は始まりません。納品から請求までの間が空くほど、この関門で止まったまま忘れられます。
④ 支払 — 相手の支払条件によって、実際に振り込まれる日が決まる段階です。同じ日に請求しても、条件が違えば入金は1か月以上ずれます。
4つのうち1つでも情報が欠けていると、月ごとの合計は出せません。逆に4つが揃えば、案件ごとに「いつ・いくら」が言えます。
止まる場所は人によって違う
同じ「入金が読めない」でも、詰まっている関門は人によって変わります。
案件を取ること自体に集中している時期は、①で止まります。見積を出したまま返事を待っている案件が増え、期待値だけが膨らみます。
制作が忙しい時期は、②と③で止まります。納品は終えているのに請求書を作る時間がなく、翌月へ持ち越します。
取引先が増えた時期は、④で止まります。相手ごとに支払条件が違い、どれがいつ入るのか把握できなくなります。
自分がどこで止まりやすいかが分かると、対策の順番が決まります。全部を一度に直す必要はありません。
紙1枚に置いてみる
道具は要りません。次の手順で、いまの状態を出します。
- 紙を1枚用意し、縦線を3本引いて4つの列を作ります。左から「受注確定」「納品」「請求」「支払待ち」です。
- 進行中の案件を、思い出せるだけ書き出します。いま通過している関門の列に置きます。
- 各案件に、相手の名前と金額(税抜)を書き添えます。日付はこの時点で分からなくて構いません。
- 列ごとに、次に進めるための一手を1つだけ書きます。「納品」の列なら「確認の返信をもらう」、「請求」の列なら「今月中に請求書を出す」といった具合です。
- 「請求」と「支払待ち」の列にある案件の金額を足します。これが、いま見込める入金です。
「受注確定」と「納品」の列は合計に入れません。まだ請求していない金額を入れると、見込みが実態より大きくなります。
思い出せない案件があること自体が、いま情報が欠けている場所です。全部を正確に埋めることは目標ではありません。埋まらなかった欄を確認する順番が、そのまま次にやることになります。
金額と日付は、この後で確定する
紙1枚で分かるのは「どこまで進んだか」と「おおよその金額」までです。実際に振り込まれる額と日付は、さらに2つの条件で変わります。
1つは支払条件です。「月末締め翌月末払い」のような条件は、締め日をまたいだかどうかで入金月が変わります。取引によっては、成果物を受け取った日から60日以内という法律上の定めが関わることもあります(当事者の要件を満たす場合の定めで、すべての取引に自動的に当てはまるわけではありません)。
もう1つは源泉徴収です。報酬の種類によっては、請求額から所得税分が差し引かれて振り込まれます。11万円の請求に対して98,790円しか入らない、という差はここで生まれます。
どちらもこのシリーズの後の記事で個別に扱います。この記事では「金額と日付が動く要因が2つある」ことまで押さえておけば十分です。
続く形を選ぶ
紙で始めた後、どこまで道具を使うかは条件で決まります。判断軸は機能の多さではなく、更新が続くかどうかです。
- 紙のままで足りる — 案件が3件以下で、月に1回書き直しても負担にならない。
- 表計算に移す — 案件が増えて書き直しが面倒になった。過去の月と比べたい。
- 専用の道具を検討する — 見積書や請求書を自分で作っていて、書類の状態と入金予定を二重に管理している。
3つ目に当てはまる場合、記録の手間が二重になっています。請求書を作り、そのうえで別の表に「請求済み・金額・入金予定日」を書き写している状態です。書き写しを忘れた分だけ、入金予定は実態からずれていきます。
書類の状態が、そのまま入金予定になる選択肢
ここまでの方法は、アプリがなくても実行できます。道具によって差が出るのは、書類を作った後に予定表を更新する手間です。
見積・納品・請求を1つの案件の下でまとめて扱い、請求書を送った時点でその金額が入金予定に入る。その作りに範囲を絞ったアプリが、KASEGUです。書類の状態が入金予定の入力そのものになるため、二重に記録する場所がなくなります。

開いた最初の画面の上部に、月別の入金予定が出ます。この記事でいう「③請求」と「④支払待ち」に当たる案件の金額が、ここに集計されています。下のほうにある要対応のリストには、「②納品」で止まっている案件が並びます。紙に書き出した4つの列が、そのまま画面の構成になっていると考えてください。
KASEGUは、記帳や確定申告そのものを行う会計ソフトではありません。案件の進み方とお金の入り方を1か所で見るためのアプリです。仕訳や決算書の作成が必要なら、会計ソフトや税理士と組み合わせて使います。
この方法が向かない場合
案件が月に1〜2件で記憶に収まるなら、4つの列に分ける手間のほうが大きくなります。頭の中で足りている間は、そのままで構いません。
経理担当がいる、または請求業務を外部に委託しているなら、この記事の方法は重複します。その場合は、担当者が持っている情報をいつ受け取るかを決めるほうが早く進みます。
源泉徴収の要否や税額は、報酬の種類と支払者の区分で変わります。この記事では「金額が変わる要因がある」ことまでを扱っています。個別の判断は税理士または所轄の税務署へ確認してください。
支払条件が法律上どう扱われるかも、取引の当事者によって変わります。支払いが遅れて困っている場合は、フリーランス・トラブル110番や公正取引委員会の相談窓口が使えます。
今日、1件だけ選ぶ
最初にやることは、全案件を整理することではありません。
いま進行中の案件を1件だけ選び、4つの関門のどこで止まっているかと、次の一手を紙に書き出してください。それで今日は終わりです。
1件書けば、残りの案件も同じ形で置けます。全部を並べるのは、次に月末が来たときで間に合います。
KASEGU について
KASEGU は、案件ごとに見積書・納品書・請求書を作り、その書類の状態から来月の入金予定が決まる iPhone / iPad 向けのアプリです。クライアントに登録した支払条件から入金予定日が入り、源泉徴収後の受取額で月別に集計されます。クライアント3件・案件10件・書類20件までは無料で使えます。
本記事は、フリーランスが自分の入金を見通すための実務手順を扱うものです。源泉徴収の要否と税率、インボイス制度の要件、支払期日に関する法令の適用は、報酬の種類・支払者の区分・取引の当事者によって変わります。個別の判断は税理士または所轄の税務署へご確認ください。支払いの遅延で困っている場合は、フリーランス・トラブル110番や公正取引委員会の相談窓口が利用できます。KASEGU は記帳・決算・確定申告を行う会計ソフトではありません。